MEMO

日常の呟きから小説裏話まで
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いつかどこかで・但し書き

【但し書き】

・こちらは13周年企画「いつどこゲームde短編小説」の投票結果をもとに書いたオリジナル小説です。
全6話構成の不定期連載となります。(最終的に全7話になりました)
・「星明かり亭」内の各作品からキャラクターが一堂に会しております関係上、オリジナル作品とは様々な設定が異なりますので、あくまで「企画もの」としてお楽しみください。(各作品本編とはリンクしておりません)
・上記理由により、物語の舞台は「Parallel Planet」の”学園惑星ステラルクス”となっております。そちらの設定等は星明かり亭内「Parallel Planet」よりご確認ください。

勢いで書き上げて勢いでアップします。誤字脱字、また色々気になる点がございましたら各話のコメント欄よりご意見等をお寄せください。
全話連載終了後、あれこれ修正して完成版にしたものをサイトにアップします。

・完成版をサイトにアップしました!(2012/08/10追記)


第1話「いつ」 2012/07/01
第2話「どこで」 2012/07/01
第3話「誰が」 2012/07/05
第4話「誰と」 2012/07/06
第5話「何をして」 2012/07/11
第6話「どうなった」 2012/07/23
エピローグ 2012/07/24

※この記事は「いつかどこかで」連載終了までブログトップに表示されます。 

いつかどこかで・エピローグ

「それで、どうなったの?」
「どっちが勝ったの?」
 長い話を聞き終えて、鏡合わせに首を傾げる双子の姉弟に、駄菓子屋の現役看板娘は楽しげに笑う。
「そうさね……。強いて言うなら――」
 思わせぶりな口調に、思わず身を乗り出した双子達は、背後から立ち上る憤怒のオーラに気づかない。
「あんた達!! また往来で喧嘩して!!」
「ぎゃっ!!」
 手に手を取り合って飛び上がる双子の頭をそれぞれ鷲掴みにし、怒髪天を突くのは誰であろう双子の母親ハナだ。よほど慌てて駆けつけたのだろう、つっかけの左右が合っていない。
「くだらないことで喧嘩しておばあちゃんに迷惑かけるんじゃないよ! バツとして三日間、おやつ抜き!!」
「ええー!」
「そんなあ!」
 不満げな双子の声に、くわっと目を見開くハナ。鬼神もかくやの形相にまあまあと手を振って、涙目になっている双子にやさしく問いかける。
「二人とも。お母さんに喧嘩の理由を話しておあげ」
「だからレンが、どっちが強いかって」
「違うよアイがお姉さんぶるのが――」
 またぞろ揉めだした双子に、違う違うと首を振って、ほらと促す。
「最初の理由は何だったのか、思い出してごらん」
「最初の?」
「えっとぉ……」
 顔を見合わせ、眉間にしわを寄せて考え込んだ二人は、同時にぱっと顔を上げた。
「母の日のプレゼント!」
 声を揃える二人に、目を丸くするハナ。
「そうだよ、かわいいものにしようよって」
「食べ物の方がいいって言ったじゃん!」
「食べ物じゃ残らないでしょ!」
「変なものあげるよりよっぽどいいよ!」
 きゃんきゃんと言い合う双子をまとめて抱きしめて、ハナは馬鹿だねえ、と呟いた。
「あんた達が仲良くしてるのが、お母さんにとって一番のプレゼントよ」
 そうなの? と見上げてくる二人の頭をわしわしと撫でながら、照れたように笑う母。それを見て、にっこりと笑いあう双子。
 そんな家族の様子を楽しそうに見つめながら、山田のおばあちゃんは分かったかい? と片目を瞑る。
「お母さんが最強、ってことさ」
「あら、何の話?」
 入り口から響いてきた声に、駄菓子屋の看板娘はおやおや、と笑う。
「噂をすれば何とやら、だねえ。今ちょうど、昔の話をしていたんだよ」
 連れ立ってやってきたのは金髪の魔術士二人と、燃えるような赤い髪の青年。魔術士二人は鏡のようにそっくりで、それなのに正反対の雰囲気を漂わせている。
「なに、何の話? うちのお袋が二人をとっちめたってアレ?」
 にやにやと笑いながら言ってくる赤毛の青年に、二人揃えて異論を唱える。
「あの時はあんたがまだ小っちゃかったから、仕方なく引き分けで収めてあげたんじゃないの!」
「何言ってるんです、彼女に止められなかったら私の勝ちでしたよ」
「馬鹿なこと言ってるんじゃないわよ、私の勝ちに決まってるでしょ!!」
 ぎゃーぎゃーと賑やかな言い争いに目を丸くする双子と、また始まったとばかりに肩をすくめ、我関せずとばかりにお菓子を選びにかかる赤毛の青年。
 時を経ても変わらない光景に目を細め、駄菓子屋の看板娘は不思議そうに三人を見つめる双子へと目くばせを投げる。
「魔術士は年を取るのが遅いのさ。いつの間にか私の方が年上になってしまったねえ」
「なによ、年寄りじみたこと言って」
 それよりさあ、と鼻息も荒く詰め寄ってくるリダ。
「新製品が入荷したって聞いてから来たのよ。どれのこと? 美味しい?」
「あーあ、リダ姉はいつになってもお子ちゃまだなあ。いい加減甘いもん卒業すれば?」
 茶化すディオをきっと睨みつけ、その両手いっぱいの駄菓子を見て鼻を鳴らす。
「あんたこそ、まだそんなシールつきのお菓子買ってるわけ? いい加減やめなさいよ、いい大人が」
「うるさいなあ、ずっと集めてんだからいいだろ!」
「コレクションもいいですが、お菓子もきちんと食べてくださいね? 後始末につき合わされるのはもうこりごりです」
 ぴしゃりと窘められて、べえと舌を出すディオの袖を、くいくいと引っ張るレン。
「ん? なんだチビ?」
「お兄ちゃん、それ集めてるの? 僕もだよ!」
「おっ、お前分かってるなあ! 余ってるのあったら交換しねえか?」
「お姉さん、新製品ってこれのことじゃない? 私もう食べたよ! すっごくおいしかった!」
「あらホント? じゃあ買って帰らなきゃねえ~」
 妙に意気投合した彼らの微笑ましいやり取りにおやおやと顔を見合わせた大人達は、誰からともなく笑みをこぼす。
「ほらあんた達! いつまでやってんの! 帰るよ!」
 またぞろ落ちた雷に首を竦め、とぼとぼと歩き出す双子。
「やっぱり、お母さんは最強ですね」
 くすくすと笑うリファに、うんうんと相槌を打つリダ。身に覚えがあるのか双子と一緒に首を竦めていたディオが手を振れば、お揃いの笑顔がそれに応える。
「じゃあね!」
「またね!」
 そう言ってガラス戸を潜れば、いつの間にか空は真っ赤に染まり、彼方から夜の帳が降りはじめていた。
「あーあ、もっとおばあちゃんとお話したかったのにー」
 ぶーぶー文句を言いながら、ふと振り返れば、オレンジ色の電気が照らす駄菓子屋からは、賑やかな歓声が響いている。
 ガラスの向こう、朗らかに笑う駄菓子屋の看板娘。
 黒いお下げ髪にサクランボの髪飾り。そんな若かりし日の姿が見えたような気がして目を擦れば、急速に暗くなっていく空に、一番星が輝くのが見えた。


いつかどこかで・終わり

いつかどこかで・第6話「どうなった」

 劫火が舞い、竜巻が踊る。激しい雷光が駆け抜けたかと思えば、荒れ狂う水流がそれを追いかける。
 次から次へと繰り出される技の数々は、まるで魔法の見本市だ。しかも普段は滅多にお目にかからない大技ばかりが放たれては打ち消され、そこからまた次の魔法へと繋がっていく。
「凄い……!!」
 結界で守られている安心感もあって、サラは食い入るように目の前で繰り広げられる魔法合戦を見つめていた。
 もうすでに一時間以上続けているはずなのに、二人とも全く技に衰えが見えない。余計な口は一切挟まず、ひたすらに呪文を唱える二人の横顔は、なぜかとても楽しそうだった。一歩間違えれば命を落としかねない場面なのに、二人とも満面の笑みを浮かべ、矢継ぎ早に呪文を紡いでいく。
 強大過ぎる力を持つ故に、普段は全力を出すことを禁じられている二人。普段から不満を口にしてはばからないリダだけでなく、リファもまた力を抑えて使うことに多少なりとも閉塞感を覚えていたのかもしれない。でなければ、あんなに楽しそうに攻撃魔法を叩きこんだりはしないだろう。
『氷結の礫よ――!』
『火球招来――!』
 またぞろ大技が炸裂し、舞台の真ん中で炎と氷がぶつかり合って、弾けるような音が辺りに響き渡る。そう、まるで子供が泣いているような――。
「あれ?」
『止め!!』
 凛とした声が響き渡り、途端にパンッと何かが砕け散るような音がして、すべての魔法が消え去った。
 途端に静まり返る中庭にこだまする、すすり泣くような幼い声。
 振り返れば、白亜の宮殿からこちらへ向かって歩いてくる一人の女性の姿が見えた。その細腕で赤子を抱え、白い衣をはためかせてゆっくりと歩を進める優美な姿は、まるで神話の女神が絵画から抜け出してきたかのようだ。
「やばっ……」
 途端に顔をしかめて、そろりそろりと後退しようとしたリダの足元から蔦が伸びて、その逃げ足を掬う。
「連帯責任ですからね」
 素早く囁いて、リファは現れた人物にさわやかな笑顔を向けた。
「これはこれはご機嫌麗しゅう、ルシエラ」
 その名前に、ぎょっと目を剥くサラ。そして、泣きじゃくる赤子をよしよしとあやしながらやってきたその人物を恐る恐る窺えば、彼女は紅い唇を三日月の形に引き上げて、玲瓏たる声で告げた。
「生憎と、我が息子の機嫌は最悪じゃ。なにせ、せっかくすやすやと眠っていたところを叩き起こされたのだからのう」
「……やばい、魔女帝モードに入っちゃってるわ……」
「……ああなると手が付けられませんよ、どうします?」
 こそこそと囁き合う魔術士達をぎろりと睨みつけ、かつて『魔女帝』の二つ名を轟かせていた稀代の魔女は、背筋が寒くなるほどの笑みを浮かべてみせた。
「我がいとし子の眠りを妨げた罪は重いぞ。さて、どう贖ってもらおうかのう……!」
 背後で轟く雷鳴が見えたような、そんな錯覚すら覚える魔女帝の怒りに、ひいい、と手を取り合って慄く魔術士達。
「ごめんなさいごめんなさいっ! もうしませんから許してくださいっ」
「騒がしくしてしまってすみません。ディオのお世話を代わりますからそれで勘弁してください。ねっ」
 平身低頭謝り倒す金髪の魔術士達、それを冷やかに見つめる魔女の赤き瞳。
 緊迫した空気を打ち破ったのは、あどけない笑い声だった。
 きゃっきゃと笑うその声に、ふと目元を緩ませるルシエラ。
「あら、ディオ。ご機嫌が直った?」
 口調も柔らかくなり、威厳ある女帝から一人の母親の表情へと一瞬で切り替わっている。いや、こちらこそが彼女の本来の姿なのだろう。
 ニコニコ顔で甘えてくる息子を慈母の笑みで見つめ、それからおもむろに、少し離れたところで立ち尽くす少女へと視線を向ける。
「とんでもないことに巻き込んだようで、ごめんなさいね。この二人も悪気があった訳ではないとは思うのですが、一般人を危険な目に合わせるなんて魔術士の風上にも置けません。私がきっちり言い聞かせておきますので、どうぞ許してください」
「ととと、とんでもない! ちゃんと結界で守ってもらってましたし、私もすごい魔法が間近で見られて、楽しかったです!」
 『魔女帝』ルシエラ――かつて魔術科の主任教授として教鞭を取っていた天才魔女にこんなにも低姿勢で謝られては、かえって申し訳ない。
 慌てふためくサラに、現在育児休暇中の魔女は目を細めて、ありがとうございます、と穏やかな笑顔を浮かべた。
「お詫びと言っては何ですが、よろしければ昼食をご一緒しませんか?」
「ええっ!? いいんですか?」
 ええ、と微笑みながら、くるりと振り返る。
「この二人が腕を振るってくださるそうですから」
 にっこりと、それはもうにっこりと笑いながら、ねえ? と目で訴えてくるルシエラに、弾かれたようにこくこくと頷く魔術士達。
「そりゃあもう、任せてちょうだい!」
「腕によりをかけて作りますよ」
 そんな返事に頷いて、さらに笑顔で追い打ちをかける。
「ここの修復もお願いしますね。きちんと元通りに直してください。それと、今度から使う時は私の許可をきちんと取ってくださいね。勝手に使うからこういうことになるんですよ」
 ごめんなさいっ、と揃って頭を下げる二人に頷いて、ルシエラはさあ、と少女を手招きする。
「支度が整うまで時間がかかるでしょうから、それまで庭園を案内しましょうか。ここは私のお気に入りの庭なんです」
 艶やかな微笑みに思わずほう、と見惚れてしまってから、慌ててありがとうございます、と大きく頷くサラ。
 連れだって歩き出そうとして、何やら背後でこそこそと囁き合っている魔術士達に気づいたルシエラは、くすくすと笑って言った。
「心配なら、助っ人を呼んでも構いませんよ?」
 その言葉にリダがぱあ、と顔を輝かせる。
「本当? やったあ! ちょっと待ってて、ギルを呼んでくるわ!」
 慌てて駆け出していくリダの背中に、リファが楽しそうに声をかける。
「ついでにユラとアルを呼んできてください。どうせなら賑やかな食事会にしましょう。いいでしょう?」
「ええ、喜んで」
 鷹揚に頷くルシエラと、そんな母の笑顔に朗らかな笑い声をあげる赤子。仲睦まじい親子を、真昼の太陽が照らし出す。
 そんな微笑ましい様子に目を細めていると、ルシエラはあらいけない、と呟いて、サラに向き直った。
「ちゃんと自己紹介をしていませんでしたね。私はルシエラ。この子は息子のディオです」
「サラです。三丁目の駄菓子屋で店番をしてます」
 その言葉に、まるで少女のように顔を輝かせるルシエラ。
「まあ! 駄菓子屋さん? 素敵ですね。今度、おやつを買いに行きます」
「ありがとうございます。お待ちしてます!」
「おや、こんなところにいたのかい?」
 ふと聞き慣れない声がして振り返れば、ちょうどリダと入れ替わりで庭にやってきた赤毛の青年と目が合った。
「あら、あなた」
 嬉しそうに声を上げるルシエラに手を挙げて答え、足音も軽くやってきた青年は、ルシエラの手からディオをひょいと受け取って、嬉しそうに笑う。
「やあディオ、我が息子。さっき盛大に泣いていた気がしたけど、もうご機嫌かい?」
 高い高いをされてきゃっきゃと笑う赤子は、先程のぐずりようが嘘のようだ。そんな息子を手際よくあやしながら、赤毛の青年はサラへとさわやかな笑顔を向ける。
「やあ、新しいお友達かな? はじめまして。吟遊詩人のフレイと申します」
 その名は聞いたことがあった。普段は風の向くまま旅をしているが、時折学園へやってきては音楽科の教師を勤めているという美貌の吟遊詩人。
「サラです」
 そう自己紹介すると、フレイはああ、と顔を綻ばせた。
「三丁目の駄菓子屋さんの看板娘さんだね。なるほど、噂通りの別嬪さんだ。君目当てのお客が引きも切らないというのも頷ける話だなあ」
 さすがは吟遊詩人、噂も早いし口も滑らかだ。思わず照れるサラの背後から、ごほんごほんとわざとらしい咳払いが響く。
「妻をめとった身で軽々しく女性を褒め上げるものではないぞ」
 冷ややかな声の主は、白銀の髪を束ねた細面の魔術士。リダが「陰険教師」と公言して憚らない魔術科の主任教授、『鉄面皮』ノーイだ。なぜこんなところに、と首を傾げるサラの横を通り抜け、ルシエラに小さく目礼をしてからディオを抱えたフレイへと向き直り、刺すような視線を投げかける。
「大体、結婚した身でありながら貴殿がふらふらとしたままだから、ルシエラに負担がかかるのだぞ」
「いやあ、私のようなちゃらんぽらんな男がそばにいるより、凄腕の子守が一人ついていた方が安心でしょう?」
「リダにそそのかされて、こんなところで魔法対決するようなお方がついていただけでは不安は拭えん」
「ノーイ、それは私に対する嫌味ですか?」
「私はただ事実を述べているだけだが?」
 睨み合いに突入した子守と側近に、まあまあと笑顔を向けるルシエラ。
「二人も反省しているようですし、ほら、二人が怖い顔で言い合っているから、ディオがまた泣きそうになっています」
 即座に振り返り、不機嫌そうな赤子に慌てふためく金と銀の魔術士。
「ディオ、ごめんなさいね、また騒がしくしてしまって。大丈夫ですよ、喧嘩しているわけじゃありませんからね」
「心配せずともよい。お主は笑っていてくれ」
 よしよしと頭を撫でられて、途端に機嫌を直すディオ。そんな息子を愛しげに抱えて、微笑みあうフレイとルシエラ。
 幸せそうな家族の構図に、思わず笑みがこぼれる。
 そこへ、遠くから何やら賑やかな声が聞こえてきた。
「もう、急に呼び出さないでよね!? 大事な魔法薬の調合中だったんだから!」
「あらあら~、どうせあの配合では失敗していたでしょうし、いいじゃありませんの~」
「腹減ったっすー。飯はどこですかー」
「えっ、こんなに集まってるの? 何を作ればいいんだよ! 俺、そんなすごいの作れないよ?」
「いいのよ、とりあえず食べられれば! ほら、助っ人いっぱい連れて来たわよ!」
「……呼んでないのも混じってますが、まあいいでしょう」
「うわっ、酷いっすよリファ師。俺だって魔術科の一員じゃないっすかー」
 途端に賑やかになる中庭に、魔女帝の朗らかな笑い声が響く。
「この離宮がこんなに賑やかになるのは久しぶりです。なんて嬉しいことでしょう」
「ああ、そうだね。それじゃあ昼食ができるまでの間、歌でもお聞かせしましょう! 題して――離宮の狂詩曲」
 ディオをルシエラに預け、どこからか取り出だしたる竪琴をつま弾けば、途端に溢れ出す華やかな音楽。
 白亜の宮殿に響き渡る歌声と歓声は、いつまでも続いたという……。

いつかどこかで・第5話「何をして」

 森の中にひっそりとたたずむ白亜の宮殿。その正面玄関に掲げられた「関係者以外立ち入り禁止」の看板をさらりと無視して、魔術士達は大理石の階段をすたすたと上って行く。
「……あの、入っていいんですか?」
「大丈夫です。私は立派な関係者ですから」
 胸を張るリファを尻目に、リダは周囲を隙なく見回しながら囁く。
「よし、誰もいないね。ばれないうちにさっさと行くよ」
「やっぱりまずいんじゃないんですか!」
「なに、町中で決闘をして学園長に詰られるよりはまだマシなはずです。さあサラ、行きますよ」
 尻込みするサラの背中を押すようにして、先行するリダの後を追いかける。
「あの、ここって一体……?」
 しんと静まり返った宮殿内に、人の気配はない。しかし、手入れされた前庭や塵ひとつ落ちていない廊下を見る限り、放棄された建物ではないことは間違いない。
 絢爛豪華な装飾こそないが、随所に精緻な細工が施された柱や梁は見ているだけで溜息が出そうだったが、それらを堪能する暇もなく、三人は風のように宮殿を駆け抜けて、やがてぽっかりと空いた空間に辿り着いた。
「わあ、きれい……!」
 噴水を中心に、色とりどりの花が咲き誇る庭。そこを抜けた先は、周囲から一段高く作られた石造りの舞台と、それを取り囲む無数の石柱――。まるで古代の神殿跡か野外ステージのようだが、それにしては祭壇も、はたまた観客席も見当たらない。
「いつ来てもいいわね、ここは」
 何やら満足げに呟いて、舞台へと上るリダ。サラの手を引いて後に続きながら、リファもまた石柱に取り囲まれた舞台を眺めてうんうんと頷いてみせる。
「ここなら周囲に迷惑がかかりませんからね。彼女もいいものを作ってくれたものです。最近はめっきり使われていないようですが」
「そりゃそうでしょ。あの人も今はそれどころじゃないだろうし」
 一体誰のことを話しているのかよく分からないが、リダが珍しく敬意を表しているからして、きっとすごい人に違いない。そう考えるとますます、この白亜の宮殿の主の正体が気になってしまう。
「さあ、あの人が来ないうちに早く始めるわよ」
「そうですね」
 トン、と杖で石舞台を叩けば、何もなかった石畳の上に青い光が走り、巨大な魔法陣を形成する。そのうちの一か所、二重の丸と不思議な文字で形成された部分を指し示して、リファはサラを振り返った。
「ではサラ、その丸の中にいてください。絶対にそこから動かないようにね」
「は、はいっ!」
 慌てて丸の中に飛び込んだサラの姿を確認して、今度はリダが杖をぶん、と振りかざす。
『立ち上がれ、光の檻よ!』
 魔法陣から光が伸びて、石柱を駆け上がって行く。そうして天空へと立ち上がった光は互いに絡み合い、円蓋のように空を覆い尽くした。
「これでどんな魔法を使っても周囲に被害は及びません。とはいえ、音や光はダダ漏れですから、やりすぎないようにしてくださいよ?」
「分かってるわよ! そっちこそ、結界を維持するだけの力は残しておきなさいよね」
「私を誰だと思っているんですか?」
 リダの挑発に不敵な笑みで答え、さてと杖を構える。
「私も久々に本気を出しましょうか」
「そうこなくっちゃ! さあサラ、見てなさい! 世紀の対決の始まりよ!」
 途端にごお、と渦巻く風は、高まる魔力の表れか。
 金の髪をなびかせて、空と海、二つの青が対峙する。
『我が呼び声に答えよ! 汝は終焉の使者――』
『紅蓮の腕、灼熱の炎、我が真なる名において――』
 リファとリダ。似て非なる二人の魔術士の戦いの幕が、今ここに切って落とされた。

いつかどこかで・第4話「誰と」

「今日こそは私が学園一だってことを証明してやるんだから―!!」
 高らかな足音と共に響いてくる物騒な叫び声。声の方をそっと窺えば、金の髪を揺らしてやってくる長身の魔法使いの姿が目に入る。
「のらりくらりとはぐらかされたけど、今日こそは逃がさないんだからね!」
 青空に向かって吠えているのは、巷で評判の『爆裂おねえちゃん』こと《鍍金の魔術士》リダ。その明るい空のような瞳は、まるで太陽の如くぎらぎらと輝いている。
「リダさん……」
 思わず呆れ顔で呼びかければ、リダは弾かれたように少女の方を向いて、少々ばつが悪そうに頭を掻いた。
「何よサラ、いるならいるって言いなさいよね」
 無茶なことを言ってくる彼女にあはは、と曖昧な笑みを返せば、リダは思い出したように尋ねてきた。
「あんた、店の準備はいいの?」
「こんな早くからお客さん来ないもの。リダさんこそ授業は?」
「今日はなし。久々の平日休みが取れたのよ」
 駄菓子屋の看板娘と、その常連客。二人の関係はその程度のものだったが、きさくな性格のリダは町中でも会えば声をかけてくれて、いつの間にか世間話をする程度には親しくなっていた。
「で? そんな貴重な休日に、また決着ごっこ?」
「ごっこじゃないわよ! 今日こそは決着をつけるんだから!」
「その言葉、先週も聞いた気がするけど……?」
「こないだはあいつが勝負をすっぽかしやがったのよ! 問い詰めたら『遠足の引率を頼まれてたのをすっかり忘れててー』って、私との勝負と遠足とどっちが大事だってのよ!?」
「……遠足なんじゃない?」
 個人的な理由と学校行事、どちらが優先されるかと言えば後者に決まっている。なにせ決闘の相手も、そしてリダ自身もまた、『教師』という肩書を背負っているのだから。
「あんたまでそんなこと言う! これはとても大事なことなんだからね!! なのにみんなして、『どっちが強いか勝負しなくたって別にいいじゃないですか』とか『大体、学園一になったところで何のメリットがあるんですか?』とか、『二位じゃ駄目なんですか?』とか、まったく分かってないんだから!!」
 駄々っ子のように怒鳴り散らす彼女が、学園でも一、二を争う有能な魔術士であることは周知の事実だ。性格に難はあれど、その実力は誰もが認めている。問題は、彼女が『学園一』の称号に固執していることだ。
「ねえ、リダさんは何で学園一になりたいの?」
 素朴な疑問をぶつけると、彼女はふんぞり返って胸を張り、きっぱりと言い放った。
「だって一番になりたいんだもの!!」
 実に単純明快な理由だが、その裏に潜む、もっと明確な理由を少女は知っている。
「……そんなこと言って、本当はただ、決闘にかこつけて思いっきり魔法がぶっ放したいだけでしょ?」
「うっ」
 図星を突かれて口ごもるリダ。そして、子どものように指を突き合わせて、言い訳がましくぼやき始める。
「だって、授業だとちまちました基礎呪文しか使わないし、実験棟は何度か壊したら攻撃系魔法使用禁止になっちゃったし、町中で魔法はご法度だし、河原でやったら警備隊にこっぴどく怒られるし、山間部でやったら自然破壊禁止だなんだってうるさいし、ストレス発散の場所がないんだもの!!」
 最後の方はほとんど開き直りである。思わず苦笑を漏らす少女に、リダはごほん、と咳払いをして、ところで、と強引に話題を変えた。
「あいつを見かけなかった? 九時に噴水の前でって言っておいたんだけど」
「ええっと……」
 リダの絶叫を聞いてトンズラこきました、と正直に答えるべきか、見ていないととぼけるべきか。逡巡する少女の答えを待たずに、リダはやおら杖を目の前で構えると、何やら歌うような呪文を紡ぎあげる。
「リ、リダさん!? 町中で魔法は――」
『我が力を以て具現せよ、そは大いなる源、力強き流れ、轟く渦よ――!』
 力ある言葉に、噴水の水がぐん、と持ち上がったかと思うと、まるで竜巻のように螺旋を描いて蠢き出す。それはあたかも水の龍の如く、巨体をくねらせて襲い掛かってくる。
「きゃあああっ!!」
 慌てて噴水から離れようとした少女の体が、不意にふわっと優しい風に包み込まれた。えっと思う暇もなく、まるで風に運ばれるシャボン玉のように宙を舞って、少し離れたところに着地する。そして――。
『散!』
 静かな、しかし力に満ちた一言で霧散する水のうねり。その細かな霧からも守られて、ほうっと立ち尽くす少女の前に、ふわりと降り立つ金色の髪。
「町中で魔法はご法度ですよ、リダ」
 子供を諌めるような口調に、しかしリダはふふん、とふんぞり返っている。
「やっぱりいたわね、リファ。さんざんすっぽかされたけど、今日という今日は決着をつけるわよ!」
 リファとリダ。まるで合わせ鏡のようにそっくりな、二人の魔法使い。
 風にたなびく金の髪も、見つめ合う青い瞳も、白磁のごとく輝く肌も、何もかもが瓜二つなのに、その表情は見事なまでに正反対だ。
「……私をおびき寄せるためにわざとあんな魔法を使いましたね? 私がいなかったらどうするつもりだったんです? サラを巻き込むだけでなく、このメインストリート一帯が水没するところだったんですよ?」
 さすがに語気を強めるリファに、しかしリダは不敵に笑って切り返す。
「この町の危機に、あんたが出てこないわけがないでしょ。星の反対側にいたって飛んでこられるんだから」
 さすがに付き合いが長いだけあって、行動パターンはお互いお見通しだ。
「……リダさん、その台詞はちょっと悪役っぽい……」
 サラの呟きを聞かなかったことにして、リダはびしり、とリファを指さした。
「今日こそあんたに勝って、私が学園一だってことを証明してみせるわ!」
「ですから、あなたが学園一で構いませんって言っているじゃありませんか」
 大きくため息をつき、大体、とぼやくリファ。
「周囲への被害を考えてくれって学園長からも釘を刺されているんですから、勝負なんて面倒なことやめましょう?」
「面倒とか言うな! 学園一を譲ってもらったところで、私が喜ぶとでも思ってるの!? 私は実力であんたをこてんぱんに叩きのめして、参ったと言わせたいのよ!」
「……ある意味、物凄く参ってるからもういいじゃないですか」
「駄目っ!!」
 やれやれ、と肩をすくめて、リファは心底渋々、といった表情で分かりました、と答えた。途端にぱあ、と顔を輝かせるリダに、そのかわり、と釘を刺す。
「一回だけですよ。あとから三回勝負だとか、今のは練習、次本番とか言い出さないでくださいね」
「分かってるわよ! さあ、いざ尋常に――」
 すちゃっと杖を構えようとしたリダに、慌てて待ったをかけるリファ。
「町中で魔法はご法度だと言っているでしょう」
「じゃあどこでやればいいのよ。今から実験施設の利用申請なんて取ろうとしたら何か月も待たされるし、町の外でやってもどうせ文句言われるんだから、もうどこでやってもいいじゃない」
「やめてください。なぜ止めなかったと学園長から説教を食らうのはごめんです」
「じゃあどうすればいいのよ!」
 やる気を削がれて不満顔のリダに、リファはにっこりと笑ってこう答えた。
「あるじゃないですか、大がかりな魔法を使っても差し支えない場所が」
 そんなところがあるとは初耳だ。魔術実験は周囲への影響を考えて、きちんと結界を張り巡らせてある専用の実験施設で行う規則になっており、それ以外の場所で魔法を――特に攻撃系魔法を使うことは禁じられている。
「ああ! あそこね」
 合点がいったとばかりに手を打つリダ。そして、一人蚊帳の外に立たされてきょとんとする少女の手をひょいと取ると、さあ行きましょうかとぐいぐい歩き出す。
「ち、ちょっとリダさん!?」
「あんた暇なんでしょ? 立ち会い人になってよ。大丈夫、巻き込まないように気をつけるから」
「えええええ!」
 困ったように振り返れば、リファもそれはいい考えですね、などと頷いている。
「さっきの勝負は無効だからやり直し、だなんて難癖つけられても困りますし、サラが見届けて下さるなら安心です。貴方に危害が及ばないように対策を取りますから、お願いできませんか?」
「そ、そんなあ……」
 降って沸いた大役に慄く少女の返事を待たず、さっと空いた方の手を取るリファ。
「さ、行きましょうか」
「そうね! 善は急げっていうからね!」
「うわああん!!」
 ――かくして、少女は二人の魔術士に引きずられるようにして、メインストリートを後にしたのであった。