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date :2014年07月

いつかどこかで2・第3話「誰が」「誰と」


「すごい」
 珍しくもアイシャがそんな感想を呟くほどに、エルドナの街は人で溢れ返っていた。
 三年に一度の祭りとあって、街の住人のみならず、大勢の観光客が押し寄せているようだった。街の中央にある噴水広場には出店が立ち並び、あちこちから色々な匂いが漂ってくる。
「アイシャ、離れるなよ。迷子になるぞ!」
 エスタスが注意したのも束の間、アイシャはふらふらと出店の一つに引き寄せられ、売り子の熱心な言葉に耳を傾けている。
「アイシャ!」
 妙なものを売りつけられてはかなわない、と慌てて駆けつけたが、時すでに遅し。アイシャはどぎつい紫色の液体が入った硝子の小瓶を握りしめ、ほくほくとした表情で立ち上がった。
「何を買わされた!? 妙な薬じゃないだろうな!?」
「ヤダナー、お客サン。変な物、売ってないヨー」
 パタパタと手を振る売り子は、浅黒い肌の青年だった。アイシャと同じく南の出身なのだろうか。言葉にもどこか異国の響きが混じる。
「元気になる、薬」
 アイシャの返答に思わず眉を顰め、彼女が握っている小瓶を胡乱げに眺めるエスタス。
「カイトにか?」
 そう尋ねると、アイシャはどこか照れくさそうにこくんと頷いてみせた。
 三人組の《暴走知恵袋》ことカイトの姿がここにないのには理由がある。ここまでの道中ではしゃぎ過ぎたのか、昨日の夜から体調を崩し、街に着くやいなや宿屋の寝台で寝込む羽目になっているからだ。
「ソレ飲めば、たちまち体軽くナルヨ。飛び上るくらいに元気出る、間違いナシ!」
 器用に片目を瞑ってみせる売り子に、聞き慣れない言葉で何かを告げ、くるりと踵を返すアイシャ。
「お、おいアイシャ!」
「ご飯、買わないと」
 二人がカイトを宿に残して広場まで出向いたのは、昼食を調達するためだ。村長は明日から店を出すための最終確認に役場へと出向いており、夕方まで戻らない。昼食を買うがてら祭の雰囲気を味わってくるといいですよと勧められて、二人でこの噴水広場へやってきたのだが、あまりの人出と店の多さに、もはやお腹いっぱいといった感じだ。
「お客サン、美味しい店アルヨ。南の料理ネ」
 ちゃっかり話を聞いていたらしい青年の言葉に、すでに歩き出していたアイシャがものすごい勢いで戻ってきた。
「どこ」
「五軒先の紫色の天幕ダヨ。串焼きも炒め飯もアッタヨ。山羊の煮込み、美味しかったナァ」
「山羊の煮込み!!」
 アイシャのこんな弾んだ声を聞いたのは初めてな気がする。
「買ってくる」
 走り出しかけたアイシャを慌てて引き留めて、エスタスはまあまあと宥めるような声を出した。
「故郷の料理にはしゃぐのは分かるけど、南大陸の料理ってあれだろ、香辛料がききまくってる奴だろ。今のカイトにそれは酷だと思うぞ」
 エスト村に居つく前、三人であちこち回っていた頃から、食事当番は交代制だった。定宿が出来た今では作る機会も少なくなったが、アイシャが当番の時に出てくる、匂いも味もかなり強烈な南国の料理の数々は今でも鮮明に覚えている。エスタスはともかく胃腸の弱いカイトは割と大変な思いをしていた。
「それだったら、東大陸の料理を探してやった方が、あいつも嬉しいんじゃないか」
 エスタスとカイトの出身地である東大陸の料理は薄味で、出汁を利かせて素材の味を引き出すものが多い。今の弱っているカイトにはその方がいいと思っての提案だったのだが、アイシャはぶんぶんと首を振った。
「弱ってる時、辛いのを食べる。汗が出て、元気になる」
「俺やアイシャならそれでいいかもしれないが、カイトは胃が弱いんだぞ。今のあいつに辛い物なんか食べさせたら、逆に胃をやられて寝込んじまうよ」
「香辛料は、薬」
「いや、だからその香辛料にやられるんだって」
 一歩も引かないアイシャに、やれやれと頭を掻くエスタス。口数こそ少ないが、彼女がこうと決めたらテコでも動かない頑固者であることはこれまでの付き合いで学んでいる。
 どうしたものかと頭を抱えかけたその時、能天気な提案が背後から響いてきた。
「では、料理対決をするというのはいかがでしょう?」
 聞き慣れた声に二人して振り返れば、そこにはは宿の入口で分かれたはずの村長の姿があった。
「村長!?」
「話は聞かせてもらいました。南大陸の料理か、東大陸の料理か。お互いがそれを作って、カイト君に決めてもらえばいいんですよ」
 幸い、ここには材料も豊富にあることですし、とにこやかに言ってのけ、さあどうです? と周囲に呼びかける。
「ソレ、いいネ!」
「お、なんだ? 面白そうな話してるじゃねえか」
「南と東の料理対決だってよ、みんな!」
 どっと歓声が沸き上がり、何だかもう当事者を置き去りにして勝手に盛り上がり始めた周囲を、村長のよく通る声が効果的に煽る。
「それでは、対決は明日の朝! この噴水広場の特設会場で行います! 皆さん、どうぞお楽しみに!!」
 万雷の拍手が沸き起こり、見知らぬ人々から叱咤激励の声を浴びせられ、アイシャとエスタスはぽかんと立ち尽くすしかなかった。
「そ、村長……」
「いやぁ、何か祭を盛り上げる企画はないかと役場の方に言われましてね。ちょうどいいじゃありませんか。明日までに二人とも、何を作るか決めておいてくださいよ」
 というわけで、と手にした包みをひょいと持ち上げ、にっこりと笑う村長。
「今日のところは、北大陸の名物料理で我慢してください。さあ、カイトさんが待っていますよ。宿に戻りましょう」


いつかどこかで2・第2話「どこで」


 事の発端はといえば、遡ること七日前――。
 のどかな昼下がりのエスト村にて、村長ヒュー=エバンスがふと漏らした一言だった。

「そう言えば、今度エルドナでお祭りがあるんですよ」
 エルドナはローラ国西部では一番の賑わいを見せる街だ。街道が交差し、様々な人や物が行き交う交わりの街。辺境の村エストからは馬車で三日ほどのところにあり、エストを定宿にしている遺跡探索の冒険者三人組――エスタス・カイト・アイシャ――も、遺跡で見つけたお宝の鑑定と換金のためにエルドナへ行くことがある。
「へえ、お祭りですか! この時期に珍しいですねえ」
 眼鏡を光らせて食いついてきたのは、知識神ルースに仕える神官であるカイト。神官に課せられる「知識の旅」の途中、この辺境の村エスト近郊のルーン遺跡に興味を抱き、西大陸から渡ってきた冒険者の一人だ。
「夏祭にしても早い気がするなあ」
 剣の手入れをしつつ首を傾げたのは、赤毛の剣士エスタス。カイトの幼馴染であり、幼い頃から現在に至るまで、「尻拭い担当」を否応なく押し付けられている不運の人でもある。
「噴水祭」
 窓辺でぼそっと呟いたのは、三人組の紅一点こと精霊使いのアイシャだ。知識の旅の途中で出会い、行動を共にするようになった南国出身の彼女は、共通語が不得手ということもあり、必要最低限のことしか喋らない。
「おや、アイシャさんはご存じだったんですね」
 細い目を更に細めて、嬉しそうに話す村長。なんでも、二百年ほど前、エルドナの中央広場に大きな噴水が設置されたことを記念して始まった祭で、三年に一度、六の月の終わりに三日間開催されるらしい。
「広場にはたくさんの出店が出て、とても賑やかなのよ。夜には噴水が魔法の光で照らされてね、それはもう綺麗なの」
 お茶のお代わりを運んできた宿の女将レオーナが、うっとりとした表情でそう話してくれた。
「まだ結婚して間もない頃、仕入れついでに二人で見に行ったんだけど、あのエドガーが感動で泣きそうになっててね」
「えっ……」
 思わず絶句するエスタスの背後から、ごほんごほんとわざとらしい咳ばらいが聞こえてくる。ばっと振り向くと、焼き菓子の乗ったお盆を手にした宿の料理人エドガーが、むすっとした顔でレオーナを手招きしていた。
「レオーナ。菓子を忘れてる」
「あら、あなた。ありがとう。ねえ、覚えてるでしょ? 昔見に行った、エルドナの噴水祭。綺麗だったわよねえ~」
「……ああ」
 口数の少なさではアイシャに勝る剛腕の料理人は、そうとだけ答えると、さっさと厨房に戻っていってしまった。
「照れ屋さんなんだから、もう」
 ぷんぷんと怒ってみせるレオーナだが、そのあまりにも似合わない単語に慄くエスタスとカイトを尻目に、村長がずれかけた話を元に戻そうと、努めて軽快な声を出す。
「実はですねえ、その噴水祭の出店で、エスト村の農作物や加工品を売ろうと思ってるんですよ。出店許可もいただいてるんで、あとは当日の売り子さんを探すだけなんですが、皆さんこの時期は畑の世話で忙しくて、なかなか手が空いてないんですよねえ」
 言いながら、ちらっちらっと三人組に視線を送る村長。なるほど、祭の話題はその前振りだったのかと苦笑を浮かべて、エスタスはいいですよ、と頷いてみせた。
「今は暇ですから、俺達でよかったらお手伝いしますよ。なあ、二人とも」
「ええ! その噴水にも興味がありますしね。いやあ、エルドナの噴水は何度も見てますけど、そんな歴史のあるものだとは気付きませんでしたよ~。俄然興味が沸きました」
「祭は、楽しい」
 どうやら二人とも異存はないようで、その言葉に村長もホッと胸を撫で下ろすと、いやあ助かりますと何度も頭を下げた。
「あちこちに声を掛けたんですが見事に振られ続けてしまって、皆さんが頼みの綱だったんですよ。いやほんと、ありがとうございます」
 出発は二日後の朝と決まり、細かい日程などを打ち合わせして、村長は弾むような足取りで『見果てぬ希望亭』を去っていった。

「安請け合いしちゃっていいの? ああ見えて、村長は人使いが荒いわよ?」
 からかうレオーナに、エスタスは苦笑を浮かべて答える。
「それは重々承知してますけど、祭と聞くとつい、嬉しくなっちゃうんですよね」
 エスタスとカイトの故郷である西大陸のベルファール国でも、頻繁に祭りが行われていた。その日ばかりは学校も休みになり、小遣いを握りしめて出店を冷やかしたり、意中の子をどうやって踊りに誘うかで頭を悩ませたものだ。
「しばらくは遺跡に潜る予定もないし、ちょうど良かったです」
「そうだ!」
 素っ頓狂な声に振り向くと、何か思い出したらしいカイトがわたわたと手を振っている。
「そういえば遺跡で見つけたあの首飾り! 鑑定してもらおうって言ってたの、すっかり忘れてましたよエスタス!」
「ああ、そう言えばそうだったな」
 つい先日、ルーン遺跡を探索中に古びた首飾りを見つけたのだが、何しろ彼らは魔術士でもなければ鑑定士でもない。ただの装身具なのか、それとも魔法のかかった品なのかも分からず、とりあえず持ち帰ってきたものの、そのままになっていた。
「ちょうどいいから、ついでに鑑定してもらってこようぜ」
「ええ、忘れずに荷物に入れておかないと」
 早速荷造りを、と二階の部屋へすっ飛んで行くカイトの背中を見送りながら、すっかり冷めてしまったお茶を飲み干す。続いてエドガー手製の焼き菓子を、と手を伸ばしたら、人数分用意されていたはずのそれはいつの間にか綺麗になくなっていた。
「アイシャー! 俺の分まで食べただろう!」
「おいしかった」
 口の傍に焼き菓子のカスをくっつけて、うんうんと頷いてみせるアイシャに、がっくりと肩を落とす。
「楽しみにしてたのに……」
「まあまあ。エルドナから帰ってきたら、また作ってくれるわよ。それに、明日のお弁当もね。楽しみにしててちょうだい」
 レオーナにそう励まされ、よろしくお願いしますと頷いてよろよろと立ち上がる。カイトほどではないが、明日からの遠出に備えて荷造りをしておかねばならない。
「往復六日に、祭が三日か。帰ってくる頃には月が変わってるな」
「季節も変わってるわよ。いよいよ夏の到来だわ」
 北大陸の夏は短い。故に人々は、駆け抜ける夏を存分に謳歌する。
「手伝うばっかりじゃなくて、祭をちゃんと楽しんでいらっしゃいね。素敵な出会いがあるかもしれないわよ」
 茶目っ気たっぷりに片目を瞑ってくる女将に、そりゃ楽しみだと軽口で応え、階段を軽快に上り出す。その途端、上階から聞こえてきた悲鳴に苦笑を漏らし、エスタスは残りの段を一気に駆け上がった。
「どうしたカイト!」
「助けてくださいエスタス~! 本が、本が雪崩れてっ……」
「またか……」


いつかどこかで2・第1話「いつ」


 久しぶりに、すっきりとした目覚めだった。
 昨日まで高かった熱もようやく下がって、体もすっかり軽くなった気がする。
 さて、今は何時だろうか? 通りに面した窓は風を通すためか僅かに開けられていて、陽光が部屋を照らしているが、ぼやけた視界ではそれ以上の推察は困難だ。
「眼鏡、めがね……」
 いつもの部屋であれば、例え目を瞑っていても定位置にある眼鏡を掴み取ることが出来るのだが、生憎とここはエスト村ではない。
「ああ、あったあった。もう、誰でしょうね、こんなところに僕の眼鏡を置いたのは」
 手探りでどうにか眼鏡を見つけ出すことに成功し、すちゃっと装着する。
 そうして、明瞭になった視界に飛び込んできたのは――!!


遅れております……m(__)m


 15周年記念企画の一つ「いつどこゲームde短編小説Part2」の執筆が予想以上に遅れております。
 当初は7月から当ブログにて連載開始の予定でしたが、中旬までオフが立て込んでおりまして、それ以降になりそうです。
 楽しみにしてくださっている方には大変申し訳ございませんが、何卒ご了承ください。




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  • Author:seeds
  •  オリジナル小説サイト「星明かり亭」を運営するへっぽこモノカキ(^^ゞ
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