MEMO

日常の呟きから小説裏話まで
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16周年記念企画・「伝説の都市」 本文・「転」


 勢いがあるうちにさくさく進めます!
 16周年記念企画・「伝説の都市」 本文・「転」を公開いたします♪

 ※なお、ラストまで公開後、サイト掲載時にまた手直しする可能性があります(^^ゞ (ブログ掲載版はそのまま残します)




「――ここが、シャンディア?」
 呆然と立ち尽くすリダの口から零れた呟きが、風に攫われていく。
 砂に埋もれた廃墟。日干し煉瓦の街並みはほとんどが砂に消え、原形をとどめていない。
「そうとも言えるし、そうでないとも言える」
 辛うじて残っている建物の壁にもたれかかり、老人は謎かけのような答えを返す。
「何よそれ!?」
 憤慨するリダを横目に、ギルは薄闇に溶け込む廃墟をぐるりと見渡して――とある「違和感」に目を瞬かせた。
「リダ、ここ……なんか、変だよ。なんていうのかな、あまりにも綺麗に欠けてるっていうか」
「綺麗に欠けてる?」
 少年の言葉に、じっと目を凝らすリダ。しかしすぐに頭を振って、杖を手に詠唱を開始する。長い呪文を一息で唱えきって、仕上げに足元の砂を杖でとんと一突きすれば、その体がふわりと宙に浮きあがった。
「ちょっと見て来るわ」
 目を丸くして見上げてくる老人にそう言い残し、辺り一面が見渡せる高度まで一気に上昇して、ぴたりと止まる。眼下に広がるのは砂の海と、半ば埋もれるようにして佇む建物群。
「なに、これ……?」
 ギルの言った意味がようやく分かった。風化した建物群は、まるで町の一部だけがえぐられたように、不自然な形で残っている。それはまるで、画家が書きかけの絵を『気に入らない』と白く塗り潰したものの、画布を押さえていた部分だけうっかり塗り残してしまったような、そんな様子だ。
 空中で考えていても埒が明かない。すぐさま地上へ戻り、今見てきたことを伝えると、老人はしたり顔で頷いてみせた。
「言い得て妙じゃな。ここはシャンディア最西端、住宅街の端っこじゃよ。ここだけが残った。ワシと共にな」
 そう答える老人の横顔から伝わってくるのは、狂おしいまでの悔恨の念。
 しかしリダは容赦なく「ちょっと爺さん、それってどういうこと!?」と声を荒げる。
 響き渡る声に驚いたのだろう、金色の瞳をぱちぱちと瞬かせたナジェム老は、元の飄々とした様子に戻って、砂の上にすとんと腰を下ろした。
「まあ、そう急くな。まだ夜明けまで時間がある。一つ、面白い話をしよう」


 交易で栄える泉の都《シャンディア》。
 過酷な環境にあって、豊かな水源を抱え、頑強な防壁に守られた都市で、人々は豊かな日々を送っていた。
 そんな平和な都市に緊急事態を知らせる鐘の音が鳴り響いたのは、とある夏の午後だった。
 短く三回、一拍置いて短く二回。ひたすらに繰り返される合図の鐘。
 それは、砂漠において一番の脅威――砂嵐の来襲を告げる鐘の音だった。

「当時、ワシは自宅におってな。砂嵐が来るというので家族や近所の人間は王宮の方へ避難しておったんだが、ワシは可愛がっていた子ヤギを連れていこうとして、一人出遅れてしまったんじゃよ」
 迫りくる砂嵐の音に怯えて動こうとしない子ヤギを、どうにかして連れて行こうと奮闘していた、その時――。
 突如として、目の前の壁が消えた。
 壁の向こう側にあった居間、鍋の煮える台所、洗濯物の翻る庭、土埃の舞う道、人々で賑わう広場――都市そのものが、消えた。
 まるで、最初から何もなかったかのように、消えてしまったのだ。
「一人残されたワシは、目の前で起こったことが理解できずに、しばらくその場に立ち尽くしておったよ」
 しばらく経って、ようやく事態を呑み込んだナジュムは、子ヤギと二人連れで砂漠を越えようとして立ち往生しているところを、通りかかった隊商に保護された。
 衰弱しきった彼を拾って面倒を見てくれた隊商の長は、『自分はシャンディアの民である』と語るナジェムに、それはそれは思議そうに首を傾げたものだ。
「シャンディア? この辺りにそんな町があったかね?」
 絶望の淵を見た、そんな思いだった。
 彼の生まれ故郷は、つい数日前まで確かに存在していた都市国家は、人々の記憶からも失われてしまったのだ。
 打ちひしがれる少年を乗せた隊商は、やがて《ルス・ジレータ》へと到着した。
 手当たり次第に人々を捉まえて尋ねたが、返ってくる答えは同じ。《ルス・ジレータ》の人々の記憶からも、シャンディアの存在は綺麗に消え失せていた。
 帰る場所も、頼れる縁もない。この世で独りぼっちになってしまった少年を、隊商は雑用係として雇ってくれた。
 そして少年は《ルス・ジレータ》を拠点にあちこちへ荷物を運ぶ隊商の雑用係として忙しく働きながら、その一方でシャンディアが突如として消えた原因を探るべく、独自の研究と調査を重ねてきたのだ。
「最初は、なぜ急に都市が消えたのか、なぜ人々の記憶からも消えてしまったのか、皆目見当もつかなかった。自分の方がおかしくなってしまったのではないかと、何度も自問自答したよ」
 心の支えになったのは、あっという間に立派に成長したヤギと、そして隊商に残っていた商取引の記録。
 そう。記憶が消えても記録は残る。シャンディアの痕跡は、書物や交易の書類、はたまた子どもの落書きなど、随所に残っていた。
「記録だけが残る謎の町、かあ……」
 事情を知らなければ、実に興味深い怪奇譚だ。ギルの呟きに老人は深々と頷き、頬杖をついたまま深々と息を吐く。
「それが逆に人々の想像を掻きたてたのか、いつしか巷では『流砂に消えた伝説の都市』の噂が囁かれるようになってのう」
 一帯は《流砂の砂漠》という名で呼ばれるようになり、ついこの間まで確かに存在していた都市は、何百年も昔に流砂に飲み込まれたことになっていたのだから、噂とは実に恐ろしいものだ。
 ただ一人真実を知るナジェムが声を嗄らして主張しても、相手にされないどころか、むしろ狂人扱いされる始末。もどかしい思いを抱えながら、それでも彼はひたすらに真実を追い求めた。
「しばらくしてから、砂漠のあちこちで『蜃気楼の都市』を見たという話を聞くようになってな。話を聞くために東奔西走し、実際にこの目でも見て、確信したんじゃよ。あれは我が故郷シャンディアだ、とな」
 不思議なことに、『蜃気楼の都市』は元々シャンディアのあった場所とは全く関係のない場所にも出現しており、出現する時刻も時期もバラバラだった。
 それでも、根気よく調査を続けた結果、ある程度の規則性を見出すことが出来たのだ。
 とはいえ、蜃気楼が現れるのはほんのわずかな時間だけ。何度挑戦しても遠目に見るのが精一杯で、都市の中に入ることが叶わなかったとナジェム老は語る。
「偶然、都市が出現した場所に居合わせた、幸運な旅人もいる。彼らの話では、住人達の話す言葉までが明瞭に聞き取れたそうでな。しかし、住人達は旅人の存在に気づくことはなく、また住人や建物に触れようとしても、手が通り抜けてしまったそうじゃよ」
「なるほど。何となく見えてきたわ。特定の条件下でのみ現れる幻、音は聞こえても触れることはできないとなると――時空の歪み、かな」
 リダの言葉に、金色の双眸をきらりと煌めかせるナジェム。
「ご名答。さすがは魔術士、博識じゃな」
「時空に干渉する魔術は禁呪指定されてるからね。だからこそ逆に極めようとする輩が後を絶たないんで、そういうのとやり合ってると嫌でも色々覚えざるを得ないってものよ」
「あー……この前もいたよね、時を巻き戻す呪文を掛けてリダを無力化しようとしたヤツ。……全然効果なかったけど」
 単に術が失敗したのか、それとも森人の血を引いているリダには多少の巻き戻しなど効果がなかったのか、真相は定かではない。
 ぎろりと少年を睨みつけてから、リダは「それで?」と話の続きを促す。
「どこまで話したかの。ああ……その旅人の話では、『砂嵐から逃げる術を見出した』『双神殿長が凄い術を使う』という言葉を聞いたそうな」
 あの時、ナジェムも母から「双神殿から『王宮に集まるように』というお達しが来たから急ぎなさい」と急かされた。砂嵐を避けるため都市を脱出せよ、ではなく、人々は都市の真ん中にそびえる王宮へと集められていたのだ。
 それが何を意味するのか、当時は疑問にすら思わなかった。
「双神殿はそもそも珍しいものじゃが、時空の双神殿はその中でも最たるものよ。神殿で何が研究されていたのか、そしてあの日、神殿長が何の術を使おうとしたのか、それを調べる必要があると踏んでな。長い調査の結果、双神殿で行われていた研究の一端を知ることができたんじゃよ。そして、一つの仮説に辿り着いた――」
 時空の二神を祀る双神殿では、世界各地から神官や研究者が集まって研究に勤しんでいた。その中には、魔術・神聖術双方で禁呪指定されている『時間や空間を操作する術』も含まれていた。
 そして、運命の日――。
 突如シャンディアを襲った巨大な砂嵐。双神殿長は都市を守るため、研究途中だった時空操作術を使用して、都市を丸ごと移動させようとした。しかし、術は失敗して暴走。シャンディアは時空の狭間に飛ばされてしまった――。
「時空の狭間に……」
 ごくりと喉を鳴らすギル。
「さよう。禁呪に手を出したことが、神々の怒りに触れたのかもしれん。そして恐らくは、あの日の数時間を繰り返しながら、この砂漠を彷徨っておるのだと、ワシはそう考えておる」
「……それ、神殿に伝えたの?」
 リダの言葉に、ナジェムはもちろんだとも、と頷いてみせた。
「この仮説に辿り着いた折に、トゥーラン・ルファス両神殿へ相談しに行っておる。彼らも時空の歪み自体は認知しておったようでな、ワシを狂人扱いせず、きちんと話を聞いてくれたよ。しかし『禁呪の暴走という異常事態に対処できる手段は、今の我々にはない』と、どちらの神殿からもはっきり言われてしもうた」
 対処を試みると請け負ってはくれたが、なにしろ二種類の神聖術を組み合わせた禁呪だ。両神殿も頭を抱えているらしい。
「魔法でどうにかできないの、リダ」
 神聖術が神の力を借りるものなら、魔術は己が魔力を用いて世界そのものに干渉する術だ。術の自由度は神聖術を遥かに上回る。
 しかしリダは、そんな少年の問いかけに対し、お手上げとばかりに肩をすくめてみせた。
「時間と空間を操作する術は、魔術でも禁呪扱いだからね。こっそり研究してる奴はいるけど、もし研究が上手くいって実用化できたとしても、都市丸ごと時空の狭間に消えたなんて桁違いな異常事態をどうにかできる魔術式なんて、見当もつかないよ」
 それこそ『桁違いの魔力』と『非常識な術式構築』を得意とするリダが言うのだから、その言葉には非常に重みがある。
「その通り。ワシも幾人もの魔術士に相談を持ちかけたが、同じことを言われたよ」
 そのうちの一人は、申し訳なさそうに一通りの説明をした後、こう付け加えたという。
『この異常事態を打開できるとしたらただ一つ――神々による直接介入を願うことですね』
「神様の、直接介入?」
 聞き慣れない言葉に首を傾げるギルの横で、リダは呆れ顔だ。
「それって、高位の神官が自分自身に神を降ろすってやつでしょ? 出来る人間もそうそういないって話じゃない」
「さよう。しかも、その究極の神聖術を行使した神官は、その魂ごと消滅するそうじゃ。今のところ、なんの実害もない《蜃気楼の街》を救うために、そこまでの犠牲を払おうという神官もおるまいよ。まして、そもそもの原因が『神々の怒りに触れたため』のだとすれば、それをどうにかしてくれと神に祈ることは逆効果だろうて」
 その魔術士もそう言って、自身の無理難題過ぎる提案を謝罪したという。
「もう十年以上も昔の話じゃが……そうそう、あの魔術士はお前さんのような、綺麗な金の髪をしておったよ」
「金の髪の魔術士!?」
 思いがけず、声が揃う。
「名前は? なんて名乗った?」
「いや、旅の途中で、どうやら急ぎだったようでな。お互い名乗らずに別れたんじゃが……」
 その魔術士はドルネス王国からやってきたと話していたという。それを聞いて、二人は思わず顔を見合わせた。
「リファ、なのかな……?」
「可能性はあるね。でもまあ、その話は後だ。――で? じいさん、あんたは一体、どうするつもりなの? わたしに何をさせたいわけ?」
 空色の双眸に見つめられて、ナジェムはなぁに、と微笑を浮かべた。
「ワシはなにも、シャンディアを元に戻してほしいとか、消えた皆を救ってほしいなどとは言わんよ。それを、単なる通りすがりのお前さんらに求めるのは筋違いじゃ。ただ――ワシは死ぬ前にシャンディアに辿り着きたい。もう一度、懐かしいあの故郷を、そこに住む人々を、この目ではっきりと見たい。今、ワシが望むのはそれだけじゃ」
 望郷の思いを紡いだ老人は、そこからは打って変わって研究者の顔になると、こう続けた。
「ワシの計算では、次にシャンディアが現れるのは二日後の夜明け。場所は――ここじゃ」
「ここ!?」
「そう。あの蜃気楼は、もとあったこの場所を起点として動いている。多少のずれこそあるが、一定の周期でまた同じ場所に戻って来るんじゃよ」
 そう言いながら、おもむろに懐から取り出したのは、一枚の地図だ。砂の上に丁寧に広げられたそれには、何か所もの書き込みがされていた。
「これが、ワシが何十年もかけて記録してきたシャンディアの出現位置じゃ。これを見ればある程度の動きが予測できる」
 確かに、書き込みには重複して丸と日付が記されている場所が何か所もあった。矢印を追えば、その経路もある程度予測がつく。
「これだけ分かってるなら、自力でも辿り着けそうなもんだけど」
 リダのぼやきに、老人はところがどっこい、と頭を撫でた。
「不思議なもので、あの蜃気楼はすぐ目の前に現れたように見えて、近づこうとすると遠ざかってしまう。今までシャンディアを間近で見ることが出来たという人間は、幸運にもシャンディアが出現したまさにその場にいた者だけなんじゃよ」
 これまでに何度も挑戦を繰り返したが、うまいこと出現箇所に当たらず、何度も臍をかんだというナジェム。
「しかし、今回はお前さんがいる。お前さんの魔術なら、出現箇所に多少のずれがあっても、魔術でひとっとびだろう? 頼む。ワシをシャンディアに連れて行っておくれ」
 真摯な瞳で見つめられ、リダは決まりが悪そうに頭を掻いた。
「分かってるわよ。わたしだって、そのためにここに来たんだから。その代わり、多少荒っぽくなっても文句言わないでよ?」
「もちろんだとも。お主らと出会えて本当に良かった。どんなに感謝しても足りないほどじゃ」
 深々と頭を下げる老人の背後から、朝日が昇る。
 砂漠を染め上げる黄金の輝き。それはナジェムの瞳の色に、とてもよく似ていた。

16周年記念企画・「伝説の都市」 本文・「承」

 
 愛用のエディターに切り替えたらサクサク進みました(^^ゞ
 16周年記念企画・「伝説の都市」 本文・「承」を公開いたします♪

 ※なお、ラストまで公開後、サイト掲載時にまた手直しする可能性があります(^^ゞ (ブログ掲載版はそのまま残します)




「いーやーよ! ラクダはもう飽き飽き!」
 子供のように駄々を捏ねてみせるリダに、老人はやれやれと言わんばかりにお供の少年をちらりと見やった。
「このお嬢ちゃんはいつもこんな調子なんかのう?」
「いやその、最初は「砂漠と言えばラクダよ!}とか言ってものすごく乗り気だったんですけど、一日でめげたみたいで……」
 最初は『御伽噺に出てくるお姫様の気分ね』などと上機嫌だったリダも、すぐに『尻が痛い』『飽きた』と言い出し、最後の方は隊商の荷車に無理を言って乗せてもらっていたほどだ。
「そうは言うてもなあ」
 困り顔で頬を掻く老人を尻目に、ぶーぶー文句を垂れていたリダだったが、突如がばっと顔を上げると、「そうよ!」と立ち上がる。
「もっと楽な方法を思いついたわ! ちょっと待ってなさい!」
 言うが早いか、小屋を飛び出していったリダは、なぜか古びた絨毯を抱えて戻ってきたものだから、待ちぼうけを食わされて呑気に茶を啜っていた二人は、目が飛び出るほどに驚いた。
「なんで絨毯!?」
「いいから待ってなさい! 爺さん、ちょっと小屋を借りるわよ。さあどいたどいた!」
 訳も分からぬまま外に追い出され、呆然と立ち尽くすナジェム老。その横で、少年はがっくりと肩を落とす。
「リダがああなったら、終わるまで何を言っても無駄です。待ちましょう」
 幸い、まだ日が落ちるまでには時間がある。小屋の外には壊れかけの腰掛けがあったので、何とか持ち出せた茶器一式をそこに置いて、ギルは老人を腰掛けへと誘った。
「どうせ時間がかかるだろうから、その間に食料と水を仕入れてきます」
 留守番よろしく! と手を振って市場へと駆けていく少年を見送って、ナジェム老はずずいと茶をすすると、ぽつりと呟いたのであった。
「ここ……ワシの家なんじゃがのー」


 市場を一回りして、当座の食料と水を買い込んで戻ってきたギルは、出ていった時と同じ姿で茶を飲んでいる老人の姿に、ありゃりゃ、と頭を掻いた。
「まだ終わってませんか」
「そのようじゃの」
 小屋から漏れ聞こえてくるのは、鼻歌にも似た謎の詠唱。それはともかく、同時に響いてくる「ごりごり」という音は何なのだろう。
「あのお嬢ちゃんは、一体何をしておるのかのう?」
 小屋の中から漏れてくる不穏な物音に怯えながら、そう問いかけるナジェムに、ギルは荷物を下ろしながら、どこか楽しげに答える。
「多分ですけど――冗談を本気にするつもりなんだと思いますよ」
 はて? と老人が首を傾げたその瞬間。泡が弾けるような音と共に、小屋の隙間から眩い光が漏れ出し、辺りを包み込んだ。
「なんじゃあ?」
「うわっ……!」
 咄嗟に立ち上がり、身構えたギルだったが、音と光はすぐに収まり、危惧していた爆発も何もなく――どうやら儀式は成功したらしい。
「出来た―!」
 心底嬉しそうな声が聞こえてきて、恐る恐る小屋の入口から中を覗き込めば、そこには床に描かれた魔法陣と、その上でふわふわと浮き上がるじゅうたんの姿があった。
「やっぱり、砂漠を旅するならこれよ、これ!」
 それはまさに、御伽噺に出てくる『魔法の絨毯』。持ち主の命じるままに砂漠の空を翔ける、あの『夢の魔具』だった。本来なら長い時間をかけて、それこそ絨毯を織るところから始めるような代物だが、即席ながらも見事完成させたリダは至極ご満悦の様子だ。
「うわあ、本当に作っちゃったんだ……」
 呆れ半分、喜び半分で額を押さえるギルの横で、ナジェム老は物珍しげに絨毯をつつく。
「ほお! 魔法の絨毯とな!」
 枯れ木のような指でつつくたび、大人の腰ほどの高さで浮いた絨毯がぷるんと波打つ。しかし、全体の平衡は保たれたままだ。
「でもこれ、三人も乗ったら重さで地面についちゃうんじゃない?」
 もっともな疑問を口にしたギルに、リダはあっけらかんと「やってみないと分かんないわよ」と答えた。
「ほら、乗ったのった!」
「ええええ、俺が最初!?」
 背中をぐいぐい押され、恐る恐るじゅうたんに片膝をかける。途端にぐにゃりと波打つじゅうたんに慄きつつ、そっと体重をかけていく。
 そうしてどうにか絨毯の中央部分まで進み、膝を抱えてちんまりと座るギルに、リダは満足げに頷いた。
「うん、思ったより沈んでないわ。ほら、じーさん。あんたも乗ってみて!」
「よしよし、小僧や、手を貸しとくれ」
 ギルの手を借りて、慎重に絨毯へと乗るナジェム老。二人分の体重がかかった絨毯は、先程より若干下がったものの、まだ床までは余裕がある。
「うん、大丈夫! 行けるわよ」
 最後に悠々と絨毯に乗り込むリダ。三人分の重さをどうにか支えた絨毯は、大人の膝ほどの位置で静止していた。
「……なんかこう、想像してたのより低いんだけどさ」
「魔法の絨毯といえば、屋根を超えて自由に空を飛び回るもんじゃなかったかのう」
「うるさいわね、急いで作ったんだから、浮くだけマシだと思いなさいよ!」
 二人からの突っ込みに、顔を赤くして怒鳴るリダ。さすがに満足の行く出来とは言えないようだが、ラクダより尻にやさしいことだけは確かだろう。
「移動手段はこれでよし! あとは水と食料を積んだら出発よ!」
「その前に――」
 鼻息荒く行動開始しようとするリダを制し、ギルはよいしょと絨毯から降りる。
「この絨毯に乗ったままじゃ扉を通れないよ」
 至極ごもっともな指摘に、気勢を削がれたリダはむすっとした顔で絨毯から飛び降り、そのはずみで座ったまま宙に放り出されたナジェム老は、すんでのところでギルに受け止められて、いやはやと目を瞬かせたのであった。



 夜の砂漠は恐ろしいほどに静かだ。
 星の瞬きが聞こえるような、そんな錯覚さえ覚えるほどに静まり返った砂の海を、魔法の絨毯は滑るように進む。
 絨毯による空の旅は思いのほか快適で、リダだけでなく、駱駝での移動に慣れたナジェム老もご満悦だ。
「思ったより揺れんし、なにより早い! これは素晴らしいのう」
「言っておくけど、絨毯かけた魔法はあんまり長続きしないからね」
 本来、魔具を作るには長い時間をかけて魔力と術式を道具に定着させる必要があるという。この絨毯にはあくまで一時的に飛行の魔術を付与したに過ぎない。
「どのくらいもつの?」
 不安になってそう尋ねれば、リダは絨毯に織り込まれた複雑な文様を指でなぞりながら、そうねえと呟いた。
「……頑張って三日ってところかしら。そうしたらまた術を掛け直さないといけないから面倒だわ。それまでに辿り着くといいんだけど」
「なぁに、この絨毯は駱駝よりも早い。五日を見込んでおったが、これなら三日とかからず到着するだろうて」
 ナジェム老はこれまでに何度も、一人で駱駝を駆り、故郷シャンディアの跡地を訪れたことがあるという。しかし寄る年波には勝てず、ここ十年ばかりは小屋にこもって研究に明け暮れていた。
「最近の研究で、シャンディアの出現位置にはある程度の法則性があることが分かり、それをもとに次の出現位置の推測も可能になった。そして極めつけはお前さんらの来訪じゃ。神々はワシを見放さなかったということじゃな」
 感慨深く顎を掴む老人に、容赦なく怒声を浴びせるリダ。
「爺さん! 浸ってないで、さっさと次の目印を教えなさいよ!」
「そう急かすでない。ほれ、ヴァダムの泉が見えてきた。あそこで一度休憩するとしよう」
 老人が指し示す水場を目指し、絨毯はするすると進む。垂れさがった房飾りが砂をなぞり、風紋に抗うようにその軌跡を刻んでいく。
 ゆっくりと、しかし確実に。
 伝説の都市へと至る道を、彼らは進む。

 そうして、絨毯に乗って砂漠を旅すること、二日と半日。
 夜明け前の薄暗い砂漠、夜のうちに冷え切った砂の上に、ふわりと降り立つ魔法のじゅうたん。
「――ここじゃよ」
 老人が導いたその場所は、砂に埋もれた都市の遺跡だった。

16周年記念企画・「伝説の都市」 本文・「ゲストキャラ」


 また間が空いてしまいましたが、ちまちま書き進めていた16周年記念企画・「伝説の都市」 本文・「ゲストキャラ」を公開いたします♪

 ※なお、ラストまで公開後、サイト掲載時にまた手直しする可能性があります(^^ゞ (ブログ掲載版はそのまま残します)




「はあー、生き返るわ!」
 木陰で喉を潤しながら、歓声を上げるリダ。
 エルバドスを発って十日、ようやく辿り着いた水場《ルス・ジレータ》は、緑の木々が生い茂り、澄んだ水を滔々と湛えた泉が広がる、まさに憩いの場だった。
 砂漠のど真ん中にぽつんと佇むこの水場は、《流砂の砂漠》の中でもっとも大きく、また歴史のある水場だという。古くから隊商の休憩地点として栄えており、観光客向けの豪華な宿屋まであるというから驚きだ。
「はい、リダ。焼きたてをもらって来たよ」
 リダが木陰から動こうとしないので、仕方なくあちこちの露店を回って昼食を調達してきたギルは、じゅうじゅうと美味しそうな音を立てる肉の串を手渡すと、リダの隣にしゃがみ込んだ。
 香辛料たっぷりの串焼きに豆と臓物の煮物。そして定番の、水気たっぷりの瓜。すっかり慣れ親しんだ異国の味を堪能する二人の髪を、湖を渡る風が優しく撫でていく。
「これで水浴びが出来たら最高なのにねえ」
 眼下に広がる水面を見つめながら、心底残念そうに呟くリダ。
 《ルス・ジレータ》の命とも言える水場は、乾いた砂漠の中にあって、百年以上も涸れたことがないという。この地に生きる民の共有財産であるため、厳しい利用制限が設けられており、昼夜を問わず監視の目が光っている。勝手に汲むのはもちろんのこと、水浴びなどもってのほかだ。
「ドルネス王国には誰でも使える水練場があるって、隊商の人が言ってたよ」
「ふうん。故郷にいた頃は水遊びなんてごく当たり前だと思ってたけど、ここで聞くと贅沢な話よね」
 リダが生まれ育ったのは西大陸にある湖畔の町ルークスだ。家から歩いてすぐのところに湖があり、夏は水遊び、冬は凍った湖上を滑って遊んだりと、幼い頃から湖に親しんでいたという。
「ああ、そうだ。その串焼きを売ってたお店の人に聞いたんだけど。この《ルス・ジレータ》の外れに歴史研究家のおじいさんが住んでて、その人は自身を『シャンディアの民』だと吹聴して回ってるとかなんとか……」
 そう言った途端、目を瞬かせ、勢いよく立ちあがるリダ。
「それを早く言いなさいよ! さっさとその人に話を聞きに行くよ!」
「ちょっ、待ってよリダ! まだ俺食べ終わってない……!」
「はーやーくー!」
 子供のように急かされて、仕方なく残りの肉をまとめて串から齧りとり、猛然と咀嚼する。そうして慌ただしく腹ごしらえを済ませたギルは、すでに歩き出しているリダのもとへと駆けていった。


「ほう、来客とは珍しい」
 町外れの粗末な小屋で、本に埋もれた老人は日に焼けた顔でくしゃりと笑ってみせた。
「あ、あの、ナジェムさん……ですか?」
「いかにも。この老いぼれに何のご用かな? 異国の旅人よ」
 枯れ木のように痩せ細った体に一枚布の服を巻きつけ、ずり落ちた眼鏡をぐいと上げて眩しそうにこちらを見つめてくる老人こそが、近所で噂の「ほら吹き爺さん」こと歴史研究家のナジェム老だった。
「あんたが『シャンディアの民』って本当?」
 単刀直入に尋ねるリダに、老人は禿頭をつるりと撫でて笑う。
「こりゃまた、はっきりとものを言うお嬢さんだ。立ち話もなんだ、そこに座るといい」
 促されるままに、乱雑に詰まれた本の間にどうにか腰を下ろせば、老人は読み途中だったらしい本を傍らに押しやり、よっこいしょと二人に向き直った。
「さて、せめて名前くらいは聞かせてくれるかの?」
 至極もっともな言葉に、すみませんと頭を掻くギル。
「俺はギル。こっちは――」
「リダ。魔術士よ」
 ふんぞり返って名乗る異邦人に、ナジェム老はほうほうと顎を掴む。
「なんとまあ、噂の魔術士がこんなに若いお嬢さんだったとはのう」
 どんな噂かは恐ろしいので聞かないでおこう、と目を逸らすギル。一方のリダは「若いお嬢さん」という単語に気を良くしたらしく、まんざらでもなさそうに「私も有名になったものね」と嘯いてみせた。
「さて、いかにも儂は『シャンディアの民』じゃよ」
 眼鏡の奥で、金色の瞳がきらりと光る。金属めいた光を放つ双眸に宿る輝きは、周囲が噂するような「頭のおかしい爺様」のそれではなく、長い時を経て磨きこまれた英知の光だ。
「それじゃあ、シャンディアはただの御伽噺じゃなくて、本当にあったってわけね」
 慎重に問いかけたリダに、老人は重々しく頷いた。
「――シャンディアは実在する、それは確かじゃ。何しろ、ワシはそのシャンディアで生まれ育ったのだからのう」
 その言葉に、リダだけでなくギルもが目を見開いた。
 シャンディアの民。その言葉を聞いた時、二人はそれを「遥か昔に滅びた都市に暮らしていた民の末裔」の意味で受け取っていた。
 しかし、彼はたった今、確かに言ったのだ。
「かの地で、生まれ育った!?」
 青い目を見開いて詰め寄るリダに、老人はにかっと白い歯を見せて笑う。
「そう、ワシこそがシャンディアの生き証人というやつじゃよ」

 シャンディア。砂漠の幻と化した《伝説の都市》。
 かつては交易の要所として栄えていたシャンディアは、都市全体が高い防壁で守られており、人々で賑わう門前広場には大きな噴水まであったという。
 噴水だけではない。町には上下水道が整備され、またあちこちにある水飲み場では誰でも喉を潤すことが出来た。
 水源となっていたのは、町外れにある大きな湖。数多の詩人がこぞって褒め称えたその湖こそがシャンディアの生命線であり、この豊富な水源があったからこそ、都市は発展を続けることが出来たのだ。
「湖畔には一風変わった形の屋根を持つ王宮があってな。その向かいには『時空の双神殿』があったんじゃ。こちらは荘厳な佇まいの建物で、各地から集まった神官達によって様々な研究が行われていた」
「双神殿?」
 聞き慣れない言葉に首を傾げるギル。その途端、リダが少年の脇腹をげしっと小突く。
「二柱の神を共に祀る特殊な神殿のことよ。時空の双神殿なら、時間の神ルファスと空間の神トゥーランをまとめて祀ってるってわけ」
「な、なるほど……」
 痛烈な一撃に目を白黒させながら相槌を打つギルに、ナジェム老はほほ、と梟のように笑う。
「最近はあまり見かけなくなったからのう。少年が知らんのも無理なかろうて」
「こいつが世間知らずなだけよ。私の故郷にもあったわよ、ガイリアとユークを合祀してる神殿がね。……あんまり評判は良くなかったけど」
「……確かに、治療所と墓場が同じところにあるんじゃ、気分的にちょっとね……」
 たはは、と頬を掻く少年に、老人は朗らかに笑う。
「なぁに、生きるも死ぬも神々のお導き。あとはそう、本人の運次第じゃて」
 齢百を超える彼が言うと、何とも重みのある言葉だ。
 そんなナジェム老は、自身の発した言葉に何か思い出すものがあったのか、ふと目を細めて、そして続きを語り出す。
「そう……ワシは運が良かったんじゃよ。シャンディアが滅亡したのは、忘れもしない。ワシが六歳の折じゃった。あの日、あの時――ワシと、その時抱えていた子ヤギだけが本当に運よく、難を逃れてしもうたんじゃ」
 一言一言、噛みしめるような述懐。その言葉に滲むのは、まるで深い悔恨の念であるように聞こえた。
「一体、シャンディアで何が起こったっていうのよ?」
 ずばりと切り込むリダに、しかしナジェムはぐっと唇を噛み、まるで悪夢を振り払うかのように首を横に振る。
「……ここで話したところで、お前さんらにはきっと理解できまいよ」
 なによそれ、と憤慨するリダをまあまあと宥めて、老人の前に進み出るギル。
「それならせめて、お願いです。シャンディアのあった場所へ案内してもらえませんか。蜃気楼都市は砂漠を彷徨っていると聞いたけど、それが実在したというのなら、あなたはその場所を知っているはずだ」
 まっすぐに見つめる少年の瞳。その力強い輝きに目を細めて、老人はふむ、と頷いた。
「……今日、この時に、力ある魔術士が訪ねて来るとは、まさに神のお導きというヤツじゃな」
 きょとんとする二人を目の前に、すっくと立ち上がるナジェム老。その金色の双眸は、まるで灼熱の太陽の如く光り輝いている。
「ワシはこの日を待っておったんじゃ。いざゆかん、蜃気楼の町へ!」

第4回Text-Revolutions イベントレポート


 10/8に行われた「第4回 Text-Revolutions」にサークル参加してまいりました!

 前回、見事に迷ったので、今度こそ迷わず行くぞ! と事前に調べてから行ったのに、見事に初手から道を間違えて若干遠回りしたのは秘密だ!

 そして、今回は他のイベントとかち合っていたようで、会場についたらエレベーターホールが人でいっぱい(*_*) 諦めて階段で6階まで上がりました……。 ※これが悲劇の始まりだったことに、この時はまったく気づいていなかったのである……orz

 6階に着いてすぐにサークル入場が開始になったので、すぐさまスペースへ。
 今回は売り子をお願いできる人がいなかったので、事前に「合体マリアージュ」という企画で合体参加の申し入れをしまして、「灰青」さん・「博物館リュボーフィ」さんと合体参加させていただきました!
 買い物と店番のシフトを組んでくださったので、とても効率よく買い回りが出来ました~!! 助かりました!

 textrevo04.jpg

 今回はしまや出版さんの「ダンダン段ボール」を使ってディスプレイしたのですが、うっかり値札を下の方に貼ってしまったら見辛かったですね……。
 机が広いので、A5サイズの本をすべて平積みしてもまだ後ろに余裕がありました。

 今回は色々な企画にいっちょかみさせていただいたこともあって、ずっと落ち着かなくてすみません……。
 事前に「絶対買いたいモノリスト」を作っておいたのですが、漏れが多くて、あとから気づいて「ああああ」ってなりました……。
 ご挨拶に行こうとしていたところにも全然行けなくて、本当に申し訳ありませんm(__)m

 なんかずっとワタワタしていて挙動不審だったと思いますが、ご縁のありました皆様方、本当にありがとうございました!

 会場BGMがずっとZABADAKだったので(しかも割と初期の曲が多かった♪)、耳が幸せでございました~! 知ってる曲が流れるだけであんなに嬉しいんだなって思った……。

 そして、色々差し入れていただいたり、300字SSポストカード企画でサークル賞をあてて色々お菓子をいただいたりして、帰りの荷物がお菓子で溢れておりました(笑) しばらくおやつに困らないぞ……!


 今回の反省点としては、二次創作(刀剣乱舞)のポスカ・無料配布本がすぐに捌けてしまったことですね……。とうらぶプチのラリーに参加してたというのもあると思いますが、それ以上にとうらぶの人気を侮っておりました。どちらも早めにpixivにあげますので、どうぞそちらをご覧ください。(10/10追記⇒こちらにアップしましたー:pixiv「本丸日誌・雅」)

 300字SSポストカード企画に参加した「秘密の庭」ポストカードは、今回初めて印刷所さんにお願いしたところ、100部のはずが余部が50枚近くついてきたため、配っても配っても減らず(笑) かなりの量を企画本部さんにお預けして、今後のイベントで頒布していただくことになっておりますが、手元にもまだ30枚くらい残してあるので、しばらくご挨拶代わりに配らせていただこうと思います(^^ゞ

 ……そして、このブログを書いている今日、朝起きたら両太ももの前側がめっちゃ筋肉痛になっており、歩くのも辛い感じでして。
 そんなに足に負担をかけた記憶はないし何故だ! と憤慨しておりましたところ、はたと「昨日の朝、6階まで階段で上がった」という事実に思い当たりまして……orz いや、一日後に筋肉痛が来たことをむしろ喜ぼう……。


 ※次回のテキレボは4/1(土)開催とのことですが、2017年は諸事情ありまして、10月以降でないとイベント参加が難しいので、直参は出来ないと思います。

でんたまアンソロ特設ページが出来ました!


 「でんたま! ~伝説の卵神官シリーズ公式アンソロジー~」、無事入稿を終えました!!

 当初の予定通り、2016年秋の刊行が確定しましたことを、ここにご報告申し上げます♪

dentama_anthology_sample2.jpg


 特設ページをオープンさせましたので、詳細につきましてはそちらをご覧ください。

 →→でんたまアンソロ特設ページ

 なお、イベントでの頒布は「10/8(土) 第4回Text-Revolutions」からとなります。
 詳しくは「OFF LINE」ページをご覧ください。

 今回は、印刷所で悩んだり、仕様で悩んだり、台割で悩んだりと、あれこれ悩みっぱなしでした(^^ゞ
 また、参加者の皆様のご厚意に甘えて、あれこれ我儘言い放題でご迷惑おかけしましたm(__)m
 その分、納得のいく出来になったと自負しております!

 ぜひぜひ、お手に取ってみて下さい♪


※こちらの記事はテキレボ終了時までブログトップに表示されます。 

Twitter300字ss・「月」


 300字という字数内で一週間掛けて完結した小説を書き、それを公開して交流や宣伝に役立てようという「Twitter300字ss」。
 第二十六回目のお題は「月」です。




『月世界』

「ねえ、月はどんなところなの?」
 幼子の問いかけに、異形の魔族はついと目を細めた。
「空は何色? どんな町があるの?」
 素朴な質問に、しかし彼は首を横に振る。
『月には魔族が暮らしていて、彼らは呼びかけに応じて地上に姿を現す』――誰もが知る召喚術の基礎知識には嘘がある。
 魔族とは月に満ちた《魔》そのものだ。地上へと召喚される時、彼らは《大いなる一》から切り離されて、はじめて《個》となる。
「全然覚えテないんダヨ」
「ええー!?」
 はぐらかされて頬を膨らませた幼子は、すぐに気を取り直して、再び空想の翼を広げていく。
「きっと綺麗なお城があって、お姫様が暮らしているのよ」
 少女の思い描く月世界は、御伽噺のように美しい。




 拙作「伝説の卵神官シリーズ」の舞台となっている「幻想世界ファーン」。その「月」と「魔族」についての小話。

 ファーンでは「月には魔神リィームのおわす宮殿があり、彼の配下である魔族が暮らしている」という認識が一般的ですが、実際のところ、月は空気も水もない岩石の塊で、誰も住んではいません。

 魔族自体も、月に存在する時は純然たる「エネルギーの塊」で、召喚術によってその一部が切り離されて、術式で定められた姿や性質を形作られるだけで、「月にいた頃の記憶」などはありません。

 また、契約が終了したり地上で倒された魔族は「月に還る」とされていますが、一時的な《個》から《大いなる一》に還るので、そのタイミングで「現在の人格や記憶」はすべて消えてしまいます。

 それを嫌がって、むりやり地上に残り続けている頑固な魔族がいるとかいないとか……?